「最近、テレビの音量を上げないと聞こえづらい」「相手の言葉を聞き返すことが増えた」
聴力の低下を感じる人は、65歳を超えると急激に増え始めると言われています。

「年だから仕方ない」と片づけてしまいがちな加齢性難聴。実は、一見無関係にも思われる「認知症」にも影響を与えているようなのです。

「加齢性難聴」とは

難聴は原因によって大きく2種類に分かれます。

伝音難聴
  • 外耳や中耳に障害があることで起こる難聴。外耳道炎中耳炎などが含まれます。
  • 治療法には、薬物療法手術があります。
感音難聴
  • 内耳・蝸牛神経・脳の障害によって起こる難聴。外突発性難聴(急性)騒音性難聴加齢性難聴(慢性)などがあります。
  • 蝸牛の障害が原因の場合には、人工内耳手術という選択肢もあります。
  • 加齢性難聴は、現在治療が困難です。

加齢による聴力低下「加齢性難聴」は、現在のところ医学による機能回復は困難だとされています。ただし、補聴器で聴力を補うことは可能です。

加齢性難聴と認知症の関係

難聴が認知症リスクを高める理由として、現在3つの経路が考えられています。

  1. 心理社会的要因: 難聴があると会話がうまくできず、人との交流を避けるようになり、社会的に孤立しやすくなる
  2. 認知予備能の低下: 耳から入る情報が減ることで、脳への刺激が少なくなり、認知機能の維持に必要な力が衰えていく可能性がある
  3. 認知負荷の増大: 脳が聴き取ることに集中しなければならず、記憶や思考など他の認知機能に使えるエネルギーが減っていく可能性がある

2024年、国際医学誌『Lancet』の認知症国際委員会は、「難聴を改善すれば、理論上、認知症患者が最大7%少なくなる」とする指標を発表しました1)

この7%という数字は、高血圧や糖尿病など数ある認知症リスク因子の中で、脂質異常症と並んで最も高いものです。

また、WHO(世界保健機関)の認知症予防ガイドライン(2019)2)でも、認知症のリスクを低減するにあたって「難聴を適時に発見し治療する」ことの必要性が述べられています。

耳鼻科で耳の検査を受けているイメージ

補聴器の効果

さて、では加齢性難聴はどのように改善すればいいのでしょう。第一選択肢に上げられるのは、補聴器の装用です。

慶應義塾大学の研究グループが、55歳以上の難聴者を対象に、聴力と認知機能の関係を調べたところ、3年以上にわたって補聴器を装用しているグループでは、難聴が認知機能に影響していないことが分かりました3)

つまり難聴であっても、補聴器で聴力を補えていれば認知機能に影響を与えにくいことが確認されたのです。

一方で、どの程度聞こえにくくなったら認知機能に影響が出やすいのかも、この研究で明らかになっています。

研究によれば、その目安は38.75dBHL(デシベル・ヒアリング・レベル)。38.75dBHLは、日常会話の声(約60dB)は聞こえるものの、小声や少し離れた場所からの声が聞き取りにくくなるレベルです。

これは、案外身近に感じる聴力のレベルなのではないでしょうか。

日常会話をするご老人のイメージ

「聞こえにくさ」に気づくサイン

受診を考える目安として、厚生労働省がチェックリストを出しています。参考にしてみてください。(参照: 厚生労働省「耳の健康チェック」https://www.mhlw.go.jp/nanntyou/index.html#check

  • 話し声がはっきり聞き取れず、聞き間違えたり聞き返したりすることがある
  • 相手の言ったことを推測で判断することがある
  • 話し声が大きいと言われる
  • 家族からテレビやラジオの音量が大きいと指摘される
  • 集会や会議など数人の会話がうまく聞き取れない
  • 後ろから呼びかけられると気づかないことがある
  • 車の接近にまったく気づかないことがある
  • 電子レンジの音や玄関のチャイムの音が聞こえにくい
  • 時計のアラームなど、高い音が聞き取りにくいと感じる
  • 音の方向感がわかりにくくなる
  • 耳が詰まったような感覚が抜けない
  • 「ワーン」「キーン」などの音が耳で鳴っている状態が1日以上続く
  • 音が割れたようにカシャカシャ聞こえる

補聴器を買うには

補聴器が必要かもしれないと思ったら、まず補聴器相談医が在籍している耳鼻咽喉科を受診して相談してみましょう。診断によっては治療で改善しうるものかもしれません。

受診をしないまま、通信販売や家電量販店などを利用すると、不必要に高額な補聴器を買ってしまう危険性があります。必ず、補聴器相談医に相談するようにしましょう。

補聴器相談医の名簿が公開されていますので、参照してください。

日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会 補聴器相談医名簿

検査で補聴器が必要だと診断された場合は、どこで買うのがいいのかも引き続き相談してみてください。多くの場合、専門医が補聴器専門店を紹介してくれるはずです。

専門医に補聴器の相談をするご老人のイメージ
補聴器は「集音器」とは違うの?

補聴器は、厚生労働省の認定を受けた医療機器。一方、集音器は医療機器ではなく、音を一律に増幅する家電製品です。

日本聴覚医学会は、難聴者が会話を聞く目的で集音器を使うことに反対しています。「聞こえにくいな」と思ったら、まずは耳鼻咽喉科を受診しましょう。

補聴器っていくらぐらいするの?

相場は片耳あたり10〜30万円です。高性能モデルになると、50万円を超えることもあります。

ただし、補聴器相談医を受診し、必要書類を発行してもらい、認定補聴器専門店で補聴器を購入すると、購入費用が医療費控除の対象になります。

やはりまずは専門医に相談することをおすすめします。

聴力は40歳代から低下する傾向があり、75歳以上になると約半数の方が聞こえにくさを感じているとも言われます。

「補聴器が必要かも」と思った場合に限らず、「なんとなく聞こえづらいな」「家族に声が大きいと言われたな」など、ちょっとでも気になることがあれば、できるだけ早く専門医を受診してみるのが安心かもしれません。

本記事の内容は健康情報の提供を目的としており、医療行為・診断を目的としたものではありません。体の不調がある場合は医師にご相談ください。

記事作成日:2026/6/16

参考情報
  1. Livingston G. et al., Lancet, 2024,
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39096926/
  2. WHO「認知機能低下および認知症のリスク低減 WHOガイドライン」2019,
    https://www.jri.co.jp/file/column/opinion/detail/20200410_theme_t22.pdf(日本語版)
  3. Nishiyama T. et al., npj Aging, 2025,
    https://doi.org/10.1038/s41514-025-00203-6
  4. 厚生労働省「聞こえにくさ」感じていませんか?
    https://www.mhlw.go.jp/nanntyou/index.html
  5. 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会「難聴について」
    https://www.jibika.or.jp/owned/hwel/hearingloss/
  6. 日本補聴器販売店協会「補聴器を購入する前に」
    https://www.jhida.org/kounyu/
  7. 日本聴覚医学会「補聴器に関する一般向けQ&A」
    https://audiology-japan.jp/ippan/faq/
  8. 日本補聴器工業会 Japan Trak 2022
    https://www.hochouki.com/files/Japan_Trak_2022.pdf