「これはしつけだ」「これくらいは普通」そういう声も根強い中、実際のところ体罰は法律で禁止されています。禁止の根拠は何なのか、体罰はなぜいけないのか。その理由を科学データを元に整理します。

「体罰」とは何か

こども家庭庁の指針では、体罰を「どんなに軽いものであっても、有形力が用いられ、かつ、何らかの苦痛または不快感を引き起こすことを意図した罰」と定義しています(国連児童の権利委員会の定義に基づく)1)

「有形力」とは、叩く・つねる・押さえるなど、物理的に身体に働きかけること。つまり、相手の身体に力を加え、苦痛や不快感を与えて罰することは、たとえどんなに軽いものであっても「体罰」である、ということです。

たとえば以下のようなことが、すべて体罰に該当します。

  • 言葉で注意しても聞かないので、頬を叩いた
  • いたずらをしたので、長時間正座をさせた
  • 宿題をしなかったので、夕ご飯を与えなかった
  • 友だちに怪我をさせたので、同じように殴った

なお、「体罰」という言葉は、法律的には主に子どもへの行為に限定された概念として使われています。相手が大人であれば、「暴行」「DV」という言葉を使うのが一般的です。

「暴行」「DV」という言葉に比べ、「体罰」という言葉には「罰する」という意味合いが含まれるため、「悪いことをした際のしつけ」と表裏一体のように捉えられがちです。そういう意味で「教育の一環」であるとか、ともすれば「愛情表現」であるなどと解釈されることも少なくありません。

では実際に体罰は、教育、しつけ、あるいは愛情表現になりうるのでしょうか。

2020年に禁止が法定化された

まずは法律から確認しておきます。

2020年4月、改正児童福祉法が施行され、親権者等によるしつけ名目の体罰が明確に禁止されました。ただし現在、罰則規定はありません。

「体罰はしつけだ」という観念が根強く残る中で、もしも罰則を定めれば、起訴されるケースが後を絶たないであろうということは容易に想像できます。ですからこの法律はもとより、「体罰によらない子育てを社会全体で推進し、世論の意識を変えていくこと」に焦点を当てていると言えるでしょう。

世界で初めて体罰を法で禁じたのは1979年のスウェーデンでしたが、ここでもやはり罰則については規定されていません。

なおスウェーデンでは、法改正と啓発活動を経て、2000年以降にようやく体罰の報告がわずか数パーセントになりました2)。社会の意識が変わり、実態が変化するまでに、数十年の時間を要したことになります。日本もこれから同じような経過を辿ることになるのかもしれません。

体罰からの脱却を目指した意識変革の芽吹きをイメージ

体罰が与える負の影響

ここで、法改正の本質を考えてみましょう。「体罰はなぜ禁止すべきなのか」ということです。

16万人以上の子どもを対象にしたメタアナリシス(複数の研究を統合した分析)に3)よれば、スパンキング(お尻や手足を平手で叩くこと)という軽微に思える体罰でさえ、多くの項目において有害な結果を起こしうることが確認されています。

注目すべきは、その影響が子ども時代にとどまらない点です。攻撃性の増加自己肯定感の低下親子関係の悪化といった幼少期への影響に加え、成人後の反社会的行動やメンタルヘルス問題との関連も統計的に有意であることが示されているのです。

また、体罰を受けた経験がある人ほど、自分の子どもへの体罰を支持する傾向があることも明らかになっており、体罰が世代を超えて受け継がれる構造も示唆されています。

「生きづらさ」への波及

体罰が成人後のメンタルヘルスに影響を与えるメカニズムについては、別の研究4)が手がかりを示しています。

フロリダ州立大学にて、体罰を経験した子どもの脳を脳波計で計測したところ、ミスをしたときの神経反応が過剰になり、逆に良いことがあったときの神経反応が鈍くなっていることが確認されました。この脳の状態が慢性化することで、不安障害うつのリスクが高まると研究は明らかにしています。

些細なミスで自分を責めたり、ちゃんとやれているのにそうは思えなかったり。そういった認知傾向があると、ただ日々を過ごすだけで消耗するでしょう。まさに、近年よく叫ばれる「生きづらさ」を思い起こさせます。

体罰の影響は、体罰を受けた時点にとどまらず、その後の生き方にも小さからぬ影を落とすのです。これだけでも、十分に禁止に値すると言えるでしょう。

体罰が成人後のメンタルヘルスに影響を与えたイメージ

体罰でなければいけない場面はあるか

体罰を禁止する根拠は、ただ予後が悪いからというだけではありません。何よりも「体罰でなければいけない理由がない」からです。

アメリカ心理学会(APA)は2019年の決議5)で、「教育・しつけ・社会化という目標は、子どもへの身体的暴力なしに達成できることは明らかである」と結論づけています。体罰でなければ得られない効果は、研究の蓄積の中で確認されていないのです。

日常的な場面では

複数の研究を対象にしたメタ分析6)で、タイムアウト(問題行動の後、子どもを落ち着ける場所に一定時間連れていく方法)は子どもの従順な行動を有意に改善することが示されています。

一方、体罰が短期的な従順を引き出した研究は少数あるものの、代替手段と比較して長期的な効果を示した研究は、ほとんど存在しません。

深刻な問題行動に対しても

反抗、癇癪、攻撃的行動といった深刻な問題行動に対しては、PCIT(親子相互交流療法)というアプローチが有効です。

1970年代にアメリカで開発され、日本には2008年に導入されたエビデンスに基づく心理療法で、親子の絆を強化しながら問題行動を減らすことを目的としています。

通常12〜20セッションで構成され、ADHDや自閉症スペクトラム障害を持つ子どもの深刻な問題行動にも有効性が確認されています。

体罰からの脱却を社会構造で支える

体罰は教育、しつけ、愛情表現にはなりえません。とは言え体罰は、突発的に起きてしまうことも大いにありえます。

実際に厚生労働省の調査7)でも、育児ストレスやプレッシャーと体罰の間には明確な関連が見られています。追い詰められた末に体罰をしてしまうケースも決して珍しくはないのです。

だからこそ、責任を個人に求めるばかりではなく、社会構造という視点で体罰からの脱却を目指す必要があるでしょう。2020年の法整備は、その第一歩と言えるのかもしれません。

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参考情報

  1. こども家庭庁「体罰等によらない子育てのために~みんなで育児を支える社会に~」
    https://www.cfa.go.jp/policies/jidougyakutai/taibatsu
  2. セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン「子どもに対する暴力のない社会をめざして 体罰を廃止したスウェーデン35年のあゆみ」
    https://www.savechildren.or.jp/scjcms/dat/img/blog/1713/1412921460115.pdf
  3. Gershoff, E. T., & Grogan-Kaylor, A. “Spanking and Child Outcomes: Old Controversies and New Meta-Analyses.” Journal of Family Psychology, 30(3), 453-469, 2016.
    https://doi.org/10.1037/fam0000191
  4. Burani, K. et al. “Corporal Punishment is Uniquely Associated with a Greater Neural Response to Errors and Blunted Neural Response to Rewards in Adolescence.” Biological Psychiatry: Cognitive Neuroscience and Neuroimaging, 8(2), 210-218, 2023.
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36152947/
  5. アメリカ心理学会(APA)「Resolution on Physical Discipline of Children By Parents」2019.
    https://www.apa.org/about/policy/physical-discipline.pdf
  6. Leijten, P., Gardner, F., Melendez-Torres, G. J., Knerr, W., & Overbeek, G. “Parenting behaviors that shape child compliance: A multilevel meta-analysis.” PLOS ONE, 2018.
    https://doi.org/10.1371/journal.pone.0204929
  7. 厚株式会社キャンサースキャン「令和2年度子ども・子育て支援推進調査研究事業 体罰等によらない子育ての推進に向けた実態把握に関する調査 事業報告書」(厚生労働省委託), 2021.
    https://cancerscan.jp/news/153/

記事作成日:2026/6/11