この記事のポイント
  • バラの香りを嗅ぐと脳の構造が変わる
  • 認知症予防の効果が期待されている
  • バラ以外の花でもリラックス効果がある

花の香りを嗅ぐと、なんとなく気分が落ち着く気がしますよね。花や植物の香りを楽しむアロマテラピーなども、ここ数十年ですっかり市民権を得た感があります。

主にリラックス効果を思い浮かべがちな花の香りですが、しかし今、新たな可能性に注目が集まっています。バラの香りを嗅ぎ続けることで、脳の構造自体が変わる。そんな研究1)が2024年に発表されたのです。

バラの香りで脳の容積が増えた

京都大学・筑波大学などの研究チームが、健康な女性50人を対象にある実験をしました。

内容は、健康な女性50人を2つのグループに分け、一方にはバラのエッセンシャルオイル(精油)を、もう一方には水を、それぞれアロマシールに垂らして1か月間服につけてもらうというもの。

その結果、1か月後にMRIで脳を比較したところ、バラの香りをつけていたグループにのみ、脳の灰白質(神経細胞の本体が密集している層)の容積が増えているのが確認されました。

アルツハイマーとの関わりも

増加した部位の中で、特に注目されるのが「後帯状皮質」。後帯状皮質は「エピソード記憶」に深く関わる重要な部分です。

「エピソード記憶」とは

「昨日どこで何を食べたか」「あのとき誰と話したか」など、「いつ、どこで、何があったか」という文脈とセットで記憶される、体験の記憶のこと。

後帯状皮質が衰えてくると、たとえばこんなことが起きやすくなります。

  • 新しい場所道順が覚えにくくなる
  • 過去の出来事が思い出しにくくなる
  • 計画を具体的に立てるのが苦手になる

これらはアルツハイマー型認知症の初期に現れやすい症状です。実際に、アルツハイマーで記憶障害が現れた段階で、すでに後帯状皮質の働きが衰えていることが確認されています。

主に認知症との関わりが示されている脳の部位が拡大したということで、バラの香りが脳の萎縮を防ぎ、結果的に認知症予防につながる可能性があるのではと期待が高まっています。

一方、扁桃体は変化しなかった

灰白質が拡大した一方で、扁桃体の容積は変化しなかったことも報告されています。

扁桃体は感情の処理、とくに恐怖や不安に関わる部位。うつ病の初期や不安障害では扁桃体の拡張が報告2)されており、扁桃体が活発になると恐怖や不安を感じやすくなることがわかっています。

バラの香りはこの扁桃体には影響を与えず、記憶・認知に関わる灰白質だけに変化をもたらしました。

同時に扁桃体も拡大してしまうのであれば困りものですが、実際には記憶や認知の回路だけがポジティブな影響を受けたわけですから、これはうれしいポイントと言えそうです。

リラックス効果は気のせい?

「ところで、花の香りで落ち着くのは気のせいなの?」と思った方もいますよね。でも、そんなことはありません。

別の研究では、バラの香りを数分〜数十分嗅いだだけでコルチゾール(ストレスホルモン)が低下したり、血圧や呼吸数が下がったりすることが報告3)されています。

これまで体験として実感していたリラックス効果も、ちゃんと科学的に証明されているのです。さてここで、こんな疑問が浮かびませんか?

「じゃあ、灰白質の増加は、ストレスレベルの低い状態が長期間続いたことによる影響なのでは?」

ストレスの低い状態が続くと、灰白質が増える

実は、慢性的なストレスが脳の灰白質を減らすことは複数の研究で確認されています。そしてストレスが下がった状態が続くと、灰白質が増える可能性があることも示されています4)

バラの香りがどんなメカニズムで脳の構造を変えたのか、今回の論文では明らかにされていません。ただ、ストレス軽減が続いた結果として灰白質が増えた、そんな可能性も十分考えられますね。

早速試してみよう

研究では、バラのエッセンシャルオイルをアロマシールに数滴垂らして服に貼り、1日2回貼り直して「バラの香りを継続して嗅ぐ」という条件が作られました。

同じ方法を試すなら、アロマシールを使って、朝と夕に付け替えるなどするといいでしょう。アロマシールはオンラインでも簡単に手に入ります。香りをゆっくり拡散させるシールで、直接服に垂らすよりも香りが長持ちし、シミになりにくいのが特徴です。

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エッセンシャルオイルの選び方

エッセンシャルオイル(精油)とよく似たものに、「アロマオイル」や「フレグランスオイル」があります。それぞれ、以下のような違いがあります。

エッセンシャルオイル

植物から抽出した100%天然のもの。今回の研究で使われたのはこれ。

アロマオイル・フレグランスオイル

合成香料や天然香料を調合して作られたもの。

なお、研究で使われたのは、エッセンシャルオイルなので、購入の際には間違えないよう気をつけましょう。

エッセンシャルオイルの使い方

原液がそのまま肌につかないよう、キャリアオイル(ホホバオイルなど)で薄めて使うようにしましょう。

なお、研究で使われたのは0.5%に希釈したエッセンシャルオイルとのこと。キャリアオイル10mlに対して、エッセンシャルオイルを1滴垂らすとだいたい0.5%の希釈液ができます。

希釈が手間だという場合には、「原液をティッシュやハンカチに垂らして持ち歩く」という方法も、一般的によく使われます。研究時の方法とは異なりますが、手軽に試してみたいときにはおすすめです。(ただし、シミが残る場合などもありますので、大切なハンカチなどにつけるのはやめておきましょう。)

バラ以外の香りでもいいの?

今回の研究はバラのエッセンシャルオイルを使ったものですが、別の研究5)ではラベンダーやベルガモットなどのエッセンシャルオイルでコルチゾールの低下が報告されています。

バラのオイルはおおむね高価ですので、バラだけにこだわらず好みで選んでみるのもいいかもしれません。

男性にも効果がある?

今回の研究は女性のみを対象にしたものですが、エッセンシャルオイルのリラックス効果(コルチゾール低下など)については男性を対象にした研究6)でも確認されています。

男性にも同等の効果があるとは言い切れませんが、ストレス低下を目的にするのであれば、男性も試してみる価値はありそうです。


花の香りが脳の構造を変える可能性がある。そんな研究が示すのは、日常のちょっとした習慣が、じわじわと脳に影響を与えうるということかもしれません。

まだ研究の途上ではありますが、バラの香りをそっと日常に取り入れてみるのは、気持ちを明るくするという意味でも悪くない選択肢ではないでしょうか。

本記事の内容は健康情報の提供を目的としており、医療行為・診断を目的としたものではありません。体の不調がある場合は医師にご相談ください。

参考情報

  1. Kokubun K et al., Brain Research Bulletin, 2024.
    https://doi.org/10.1016/j.brainresbull.2024.110896
  2. Baumann B et al., Biological Psychiatry, 2002
    https://doi.org/10.1016/S0006-3223(01)01359-2
  3. Fukada M et al., Chemical Senses, 2012
    https://doi.org/10.1093/chemse/bjr108
  4. Hölzel BK et al., Psychiatry Research: Neuroimaging, 2011
    https://doi.org/10.1016/j.pscychresns.2010.08.006
  5. Watanabe E et al., Forschende Komplementärmedizin, 2015
    https://doi.org/10.1159/000380989
  6. Shiina Y et al., International Journal of Cardiology, 2008
    https://doi.org/10.1016/j.ijcard.2007.06.064

記事作成日:2026/6/1