高齢者の死因の上位に入る「誤嚥性肺炎」。この病気で入院した65歳以上の患者のうち、5年後に生きている人はわずか13%というデータがあります1)。
一度かかると死に直結しかねない誤嚥性肺炎ですが、実は日常のちょっとしたケアでリスクを大きく下げられることがわかっています。そのカギになるのが、「歯磨き」なんです。
日本人の死因第6位「誤嚥性肺炎」
誤嚥性肺炎とは、唾液や食べ物が誤って気管に流れ込む「誤嚥」によって起きる肺の炎症です。誤嚥の際に、口腔内の細菌が一緒に運ばれ、肺の中で増殖してしまうのです。
厚生労働省の統計2)によると、誤嚥性肺炎は日本人の死因第6位で、年間約4万2千人が亡くなっています。80代の肺炎患者の約8割、90代以上では9割以上が誤嚥性肺炎で、2030年には現在の約3倍になると予測されています。

なぜ高齢者に多いのか
誤嚥性肺炎が高齢者に多いのは、複数の機能が重なって低下するためです。
嚥下機能(飲みこむ力)の低下
飲み込むのに関わる筋肉や神経の働き(「嚥下機能」)が低下し、食べ物や唾液が意図せず気管に流れ込んでしまうようになります。
咳反射(異物を吐き出す力)の鈍化
異物や分泌物、刺激物を感知して、咳などで吐き出そうとする働き(「咳反射」)が鈍くなると、気管に異物が流れ込んでも咳き込んだりむせたりすることがなくなるため、そのまま異物が肺に流れ込んでしまうことになります。

免疫力(細菌などから体を守る力)の低下
また、免疫力も加齢とともに自然と低下していきます。免疫力が落ちると、肺に流れ込んだ細菌を排除しきれなくなるため、誤嚥が肺炎へと進みやすくなります。
なお、こうした変化は40代・50代ごろから少しずつ始まっています3)。40代や50代で日ごろ「肺炎」や「誤嚥」を意識する機会はあまりありませんから、どうしても対策が後手後手になってしまいがちです。この対策の遅れもまた発症理由の一つなのかもしれません。
寝ている間が要注意
誤嚥性肺炎というと、食事中に食べ物が誤って気管に入る場面を想像しますよね。でも実は、それだけが原因ではありません。
研究によると、食べ物よりも唾液の誤嚥のほうが肺炎と強く関連していることがわかっています4)。唾液は、嚥下機能や咳反射が低下することで、「気づかないうちに」気管や肺に流れ込んでしまいます。特に気を付けたいのが「睡眠中」です。
そもそも眠っている間には、誰しも嚥下機能や咳反射が低下します。健康な人でも約45%が睡眠中に誤嚥を起こしており5)、日常的に嚥下機能や咳反射の低下している高齢者では、割合は約70%に至るのだとか6)。

唾液には常在菌が含まれています。健康な状態であれば免疫が細菌を排除できますが、免疫力が低下していると排除しきれず肺炎につながります。
「だからとにかく誤嚥しないよう気を付けよう」という話ですが、「睡眠中」「気づかないうちに」起きているものに関しては、なかなか気を付けようがありません。
歯磨きで肺炎リスクが4割下がる
ここでおすすめしたいのが「口腔ケア」です。気づかないうちに誤嚥が起きてしまうのなら、まずは口内を清潔に保ち、唾液の細菌を極力抑えて、肺炎になりにくい状態を作ろうじゃないか、という発想。
実際に、要介護高齢者を対象にした研究7)では、定期的な口腔ケアを取り入れることで肺炎の発症率が約40%低下したことが報告されています。
また、歯磨きで口の中を刺激することで、低下した咳反射を改善する可能性があることも研究で示されています8)。歯磨きは単に口をきれいにするだけでなく、身体の防御機能そのものを高める可能性もあるのです。

具体的な口腔ケアの方法
では早速、誤嚥性肺炎を予防しうる具体的なケア方法をチェックしていきましょう。
毎食後に歯磨きを
研究9)で最も効果的だと示されたのが、毎食後の歯磨き。食べかすによって菌が増殖しますから、食後は早めに食べかすを除去しておきたいところです。
歯磨き粉を選ぶなら、歯垢の奥まで浸透して菌を殺菌する「IPMP」配合のものがおすすめ。
マウスウォッシュをプラス
歯磨きで食べかすは除去できますが、細菌の除去効果は実はそれほど高くありません。殺菌力を高めるためには、マウスウォッシュをプラスするのが効果的。
プラーク(細菌のかたまり)への効果を調べた研究10)では、歯磨きのみの場合が2.3%減少、CPC(塩化セチルピリジニウム)含有のマウスウォッシュを加えると83%減少したという結果が示されています。
CPCを含むマウスウォッシュには、誤嚥性肺炎の原因となる肺炎球菌や黄色ブドウ球菌を直接減らす効果も11)。
外出時で食後の歯磨きが難しい場合などは、マウスウォッシュだけでもある程度の効果は期待できるでしょう。
定期的に歯科検診も
プラークが硬化した歯石は、自分の歯磨きでは取り除けません。歯石は菌の温床になるため、定期的な歯科検診も大切です。
研究9)では週1回の検診が推奨されていますが、これはあくまでも要介護・虚弱な高齢者を対象にしたもの。
実際に週1回検診を受けるのは現実的ではありませんから、3〜6ヶ月に1回程度を目安にするといいかもしれません。

口腔保湿ジェルで乾燥を防ぐ
高齢になると唾液量自体が減り、口腔内が乾燥しやすくなります。この乾燥状態もまた、菌が増殖しやすい理由のひとつです。
唾液量の減少はなかなか自覚できないものですが、実際のところ、60歳以上の3〜4割程度に唾液分泌量の減少がみられるのだとか12)。
対策としては、専用の口腔保湿ジェルを使用するという手があります。口内に塗って、粘膜の保護や保湿をするというものです。
ドラッグストアやネットストアで簡単に手に入りますので、自覚症状のある方は特に利用を検討してみましょう。
嚥下機能への働きかけも
唾液中の細菌を減らすだけでなく、嚥下機能そのものに働きかける対策もあります。
嚥下機能の改善に有効だと言われているのが、「前舌保持嚥下訓練」13)。舌先を前歯で軽く噛んで唾液を飲み込む動作を繰り返す、というもので、道具不要で自宅でもできるのがうれしいポイントです。
舌先を噛んだまま、というのは案外難しいもの。短時間でできる訓練なので、食事前などのルーティンにしてみるのはいかがでしょうか。
早めの対策が大切
日本人の死因上位の「誤嚥性肺炎」。その予防には、適切な口腔ケアや嚥下機能の訓練などが有効だとわかりました。
毎食後の歯磨き、マウスウォッシュの活用、舌のトレーニング、いずれも毎日積み重ねていけるものばかり。
変化は40代から少しずつ始まっています。「親のことが心配」という方はもちろん、自分自身のためにも、今日から口腔ケアを見直してみてください。
本記事の内容は健康情報の提供を目的としており、医療行為・診断を目的としたものではありません。体の不調がある場合は医師にご相談ください。
参考情報
- Honda Y, et al. “Extremely Poor Post-discharge Prognosis in Aspiration Pneumonia and Its Prognostic Factors: A Retrospective Cohort Study.” Dysphagia, 2024.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38388805/ - 厚生労働省「令和4年人口動態統計(確定数)」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/kakutei22/index.html - 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会「嚥下障害」(梅﨑俊朗先生提供データより)
https://www.jibika.or.jp/owned/contents6.html - Teramoto S, et al. “High incidence of aspiration pneumonia in community- and hospital-acquired pneumonia in hospitalized patients.” J Am Geriatr Soc, 2008.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18315680/ - Gleeson K, et al. “Quantitative aspiration during sleep in normal subjects.” Chest, 1997;111(5):1266-72.
https://journal.chestnet.org/article/S0012-3692(15)46959-4/abstract - 佐々木英忠ほか「口腔・咽頭の機能低下と誤嚥性肺炎」厚生省厚生科学研究費補助金長寿科学総合研究平成6年度報告書, 1994, 4:140-146.
- Yoneyama T, et al. “Oral care reduces pneumonia in older patients in nursing homes.” J Am Geriatr Soc, 2002;50(3):430-433.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/11943036/ - Watando A, et al. “Daily oral care and cough reflex sensitivity in elderly nursing home patients.” Chest, 2004;126(4):1066-70.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/15486365/ - van der Maarel-Wierink CD, et al. “Oral health care and aspiration pneumonia in frail older people: a systematic literature review.” Gerodontology, 2013.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22390255/ - Xu L, et al. “Microbiological and clinical effects of an oral hygiene regimen.” Journal of Dental Sciences, 2017.
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2451865417300182 - Gould IM, et al. “Bactericidal and virucidal action of cetylpyridinium chloride and benzocaine lozenges against common oropharyngeal pathogens.” GMS Hygiene and Infection Control, 2025.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40352649/ - Martins C, et al. “Prevalence of hyposalivation in older people: A systematic review and meta-analysis.” Gerodontology, 2020.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32965067/ - 日本摂食嚥下リハビリテーション学会「訓練法のまとめ(2014版)」
https://www.jsdr.or.jp/wp-content/uploads/file/doc/18-1-p55-89.pdf
記事作成日:2026/5/26
