この記事のポイント
  • 旅行は認知症リスクを下げる可能性があることが研究で示されている
  • 旅行をしない高齢者は翌年うつ病になるリスクが約71%高い
  • 「外出」と「人との交流」を同時に叶えてくれるのが旅行の強み
  • 旅行後はストレスホルモンが低下し、その効果が5週間後まで続く場合がある

旅行というと「お金と体力に余裕があればするもの」というイメージを持つ方もいるかもしれません。しかし最近では、旅行を「健康維持のための手段」として研究する動きが世界中で広がっています。

国内でも東北大学加齢医学研究所とクラブツーリズムが共同で「旅行と認知症予防」の関係を本格的に研究し、その成果が国際的な学術論文誌に掲載されています。

もはや旅行は、娯楽を超えた「自分への健康投資」という時代なのかもしれません。

おススメ理由①:認知症を予防する可能性がある

東北大学加齢医学研究所とクラブツーリズムは2016年から3年間、60歳前後の顧客835名を対象に「旅行が認知症に与える影響」を共同研究しました1)

研究からわかったのは、簡単に言うとこういう流れです。

旅行をする 新しい体験への好奇心が満たされる 「生きていて楽しい」という気持ちが高まる 認知症リスクが下がる可能性がある

「生きていて楽しい」という気持ち(主観的幸福感)が高い人ほど認知症リスクが低くなることは先行研究でも示されており、旅行がそのきっかけになりうることが今回の研究で浮かび上がってきました。

なぜ旅行が脳に良いのか

同研究では、旅行は「行く前」「行っている間」「帰った後」の3段階にわたって脳を刺激するとみられています。

行く前どこに行こうか調べて計画を立てる行為そのものが、認知機能や知的好奇心を刺激するのではないか。

旅行中初めて見る景色、初めて食べる料理、新しい人との出会い。こうした非日常の体験が脳全体への刺激になるのではないか。

帰った後旅の思い出を振り返り、家族や友人に話すことで、記憶の整理と脳への刺激が続くのではないか。

なお、個人の好奇心の特性や生活状況によっては旅行がストレスになる可能性も指摘されています。あくまで「無理のない範囲での旅行」が大前提です。

おススメ理由②:うつ症状が出にくくなる

退職後に急に外出の機会が減り、気持ちが沈みがちになる方は少なくありません。旅行には、そうした孤立感や閉塞感を和らげる効果もあることが研究で示されています。

ソウル大学が平均年齢63歳の8,524人を対象に行った調査(2022年)2)によると、1年間旅行をしなかった参加者は、旅行をした参加者と比べて翌年にうつ病にかかるリスクが約71%高かったとのこと。また、旅行頻度が高い人ほど気分の落ち込みや意欲の低下が出にくい傾向にありました。

効果のメカニズムは明らかになっていませんが、別の研究3)では旅行で日常を離れるとポジティブな感情が生まれやすくなったという報告もありますから、この調査結果にも同様の影響が出たのかもしれません。

おススメ理由③:外出と交流が自然に増える

外出が少なく人との交流も乏しい状態が続くと、そうでない高齢者と比べて6年後の死亡率が2.2倍に上ったという研究があります4)。旅行はこの問題にもうってつけです。

旅に出れば体が動き、旅先では添乗員や同行者、地元の人との会話が自然に生まれます。「運動しよう」「人と話そう」と意識しなくても、非日常の体験がそれを後押ししてくれる。「外出」と「人との交流」を一度に叶えてくれることは、間違いなく旅行のメリットのひとつでしょう。

おススメ理由④:ストレスが和らぐ

旅行の効果は旅行中だけにとどまりません。

米国心理学会(APA)の研究3)では、4〜5日の旅行後にストレスホルモン(コルチゾール)が平均20%低下したことが報告されています。コルチゾールはストレスを受けたときに分泌されるホルモン。つまり、旅行によってストレスそのものが和らいだということになります。

ストレスが高い状態が続くと、眠りが浅くなったり疲労が回復しにくくなったりすると言われているため、旅行にはこれらの症状を改善する効果も期待できます。実際、休暇後に睡眠の質や身体の不調が改善したというウィーン大学の研究報告5)もありますから、この結果がコルチゾール軽減効果を裏付けているとも言えそうです。

なお同研究では、身体の不調の改善効果が旅行から戻った5週間後まで続いていたことが確認されています。「旅の余韻」には、思わぬ”おまけ”があるというわけですね。

70代~でも無理なく楽しむコツ

「旅行はしたいけど、体力に自信がないから心配」と思っている方も少なくないでしょう。でも、少しの工夫で旅はずいぶん快適になります。

予定を詰め込まない

1日に観光する場所は2〜3か所を目安に。移動の合間には休憩時間をたっぷり取りましょう。

アクセスしやすい場所を選ぶ

駅やバス停から近い宿、歩く距離の少ない観光地を選ぶなど、体力面を十分に考慮したプランニングが◎。

季節と時期を選ぶ

真夏の炎天下・極寒の真冬などに一日中出歩くのは、もはや危険です。春や秋など、気温や湿度の心地よい季節やエリアを選びましょう。

また、オフシーズンや平日であれば、混雑も少なく疲れにくくなるので安心です。

荷物をコンパクトにする

重いスーツケースやボストンバッグは思いのほか体力を消耗します。薄手のナイロンジャケットや日よけ帽子など、かさばらず軽いアウトドア系グッズを活用すると、荷物のかさも減るのでおすすめです。

お土産をたくさん買って荷物が増えたようなときには、宿泊先から自宅へ発送してしまうのもひとつの手。


旅行は「体力があるうちに楽しむもの」ではなく、「体力を維持するためにこそ続けるもの」かもしれません。

近場への日帰りから、数泊単位のゆったりスタイルまで、気ままで無理のない旅行ライフをぜひ楽しんでください。

本記事の内容は健康情報の提供を目的としており、医療行為・診断を目的としたものではありません。体の不調がある場合は医師にご相談ください。

参考情報

  1. Totsune, T., Matsudaira, I. & Taki, Y. “Curiosity–tourism interaction promotes subjective wellbeing among older adults in Japan.” Humanities and Social Sciences Communications, 8:69 (2021)
    https://doi.org/10.1057/s41599-021-00748-3
  2. Hyun S, et al. “No travel worsens depression: reciprocal relationship between travel and depression among older adults.” Annals of General Psychiatry, 2022;21:31.
    https://pmc.carenet.com/?pmid=35948992
  3. American Psychological Association, Speaking of Psychology: Vacation and stress
    https://www.apa.org/news/podcasts/speaking-of-psychology/vacation
  4. 東京都健康長寿医療センター研究所「高齢期の社会的孤立と閉じこもり傾向による死亡リスク約2倍」2018年
    https://www.tmghig.jp/research/release/2018/0727.html
  5. Kern M, et al. “Does Vacation Enable Recuperation?” Occupational Medicine, 2000;50(3):167-172.
    https://academic.oup.com/occmed/article-abstract/50/3/167/1404699

記事作成日:2026/5/17